膝蓋骨脱臼(しつがいこつだっきゅう)

写真と図を比べながらお読みください。

膝の関節は太ももの骨(大腿骨)とすねの骨(脛骨)の間の関節で、膝の靭帯(膝蓋靭帯)で固定され、膝のお皿(膝蓋骨)は膝の靭帯(膝蓋靭帯)の裏側に くっ付いていて(写真3)、屈伸時に太ももの骨(大腿骨)の先端の溝(滑車溝)に入り滑るように移動します。(図1.写真1.2.)

膝関節(膝蓋骨脱臼模式図)

膝蓋骨脱臼を起こす原因

膝蓋骨脱臼とは、膝のお皿(膝蓋骨)が外れる病気です。
犬は元々すねの骨(脛骨)が回転しやすいという解剖学的性質を持って生まれてきます。正常でも、膝の関節を曲げるとすねの骨(脛骨】は必ず内側に回転しま す。特に小型犬は、膝の骨がはまる部分である溝(滑車溝)が浅く、それを支える靭帯が薄いのです。犬の膝のお皿(膝蓋骨)は生来、不安定なものなのです。
成長期にすねの骨(脛骨】が過度に回転することなく、膝の靭帯(膝蓋靭帯)が真っ直ぐなラインを保っていれば、滑車溝は膝を曲げ伸ばしする際に膝のお皿 (膝蓋骨)との接地面でしっかり作られていき、靭帯も緩むことはありません。しかし、すねの骨(脛骨)が内転すると、膝のお皿(膝蓋骨)は滑車溝から外れ たり、入ったりを繰り返し溝は浅いまま形成されず、特に内側の壁(内側滑車稜)が低くなり、靭帯も徐々に緩んでいき、結果、すねの骨の内側への回転に伴っ て膝のお皿(膝蓋骨)も内側へ外れるという現象が起こるのです。(写真4.5.6)

人間を含め動物の肢は、曲げるときに少なからずすねの骨(脛骨】が内側に回転しますが、この内転が大きいと膝の靭帯(膝蓋靭帯)が内側に引っ張られ、膝のお皿(膝蓋骨)が脱臼してしまうのです。
私は自転車が好きなのでいろんな自転車のカタログを見るのですが有名な自転車メーカー「スペシャライズド」の靴のカタログにこんな掲載がありました。「自 転車は肢の屈伸によりペダルを回すので、専用の靴は口底の内側(土踏まず側)を高くし過度にすねの骨が内転せず、効率よく力を伝え、肢を守るよう設計され ています。」

膝蓋骨脱臼と関節炎

この様に、膝は大きな力に耐えられるように、側副靭帯、十字靭帯、半月板などさまざまなサポーターを有して構成された精密機械です。その一つが膝蓋靭帯です。
膝のお皿(膝蓋骨)が脱臼すると写真(3.4.5)のように、すねの骨(脛骨】は内側に回転し、肢のかかとが外側を向くようになり、当然膝はねじれ状態が つづき、大きな力や回転がさらに加わると膝の関節内の十字靭帯(スケートの高橋選手が痛めた靭帯)や半月板(膝関節内のクッション)にとても無理な力がか かってきます。やがて、半月板や十字靭帯の損傷を起こし、関節炎に陥り痛みが現れてきます。

膝蓋骨脱臼のグレード
グレード1
人の手で膝蓋骨を脱臼させることができますが(正常であれば、普通は外すことはできません)、普段の運動時に自然に脱臼することはほとんどありません。
関節の曲げ伸ばしに影響はありません。
グレード2
膝関節を曲げたときに自然に外れることがあります。多くは膝関節を伸ばせば、自然に元に戻ります。太ももの骨の軽度変形を認めることがあります。
グレード3
膝蓋骨はほぼ内側に脱臼したままの状態です。膝関節を伸ばした状態で、人の手で元の位置に戻すことはできますが、その後曲げ伸ばしによって再度自然に外れてしまいます。
太ももの筋肉が内側に変位しています。太ももの骨の変形や膝関節の組織の異常が生じることがあります。
グレード4
膝蓋骨は脱臼したままであり、人の手で元の位置に戻すことはできません。
太ももの筋肉が内側に変位し、太ももやすねの骨の変形、膝関節組織の異常が著明です。

膝蓋骨脱臼の兆候

  • 運動していてキャンと鳴いてビッコを引く
  • 後ろから見ると肢のかかとが外側の向いている (写真5.6)
  • 抱き上げるとき膝がこきこき鳴る
  • 腰を落として歩く
  • ロボットのような歩き方をする

成長期の脱臼は適切な処置でまだ何とかなるかもしれません。ただし、誤った屈伸運動は危険です。成長期を過ぎて グレード2以上なら手術も考えなくてはいけません。

手術

従来の、ただ膝のお皿(膝蓋骨)を脱臼させない手術では、すねの骨(脛骨)の内側への回転を矯正しきれず、再脱臼したり長年の間に半月板にむりがかかって 問題が起こることがありました。当院の手術は脱臼を修復するだけでなく、すねの骨(脛骨)の内側への回転も矯正することでこのような問題はなくなりまし た。
手術後は消炎鎮痛剤を投与し、2日目からレーザー照射と軽い屈伸運動を行っていきます。1週間後の退院時には、ほとんどの子が肢をついて歩いています。